2015年2月8日日曜日

チグリスとユーフラテス(新井素子)



何のリサーチもせず、図書館でふと手にとったこの本。ずっと昔、まだ小学生だか中学生の時に、この作者で好きだった本があることを思い出し、読んでみた。タイトルから連想される内容とは正反対の、日本SF大賞受賞作という売り文句に期待しながら。

面白かった。文章は軽いライトノベル風で、だから。そして。いつの間にか。などやたらと区切る文章には、青春時代に読んだティーンズハートを思い出した。正直言って、この文章にイライラする人も多いだろう。しかし、なかなかどうして内容は濃い。SFで深刻な雰囲気はもたせないまま、なぜ人は生きるのか、そんな普遍的な問題が描かれている。

舞台は人類が移住した惑星ナイン。数十人の移民から、人工子宮と凍結遺伝子を使い、人口爆発を迎えるが、ある時から急速に人々の生殖能力が低下し、移民から400年の後、ついに最後の子供、ルナが残る。一人となったルナは将来医学が発達した時に治療できることに希望を託し、コールド・スリープについた人々を一人ずつ起こしてゆく。惑星の違う時代に生きた人々の口から語られるその人生、価値観。そしてついには移住を実現した移民船キャプテンの妻で惑星ナインの母と崇められるレイディ・アカリの眠りまでも覚ます。

人生の理由、意義。誰もがそれを求め、信じ生きている。しかし、最後の子供、ルナにはそんなものははじめからなく、自分の存在が意味するのは虚しさだけ。だからコールド・スリープから覚めた人々の人生も自分の存在を以て否定してゆく。惑星ナインの全ては無駄だったのだと。しかし、移民事業の生みの親、アカリは怯まない。「人生は楽しんだもの勝ち」という強さ。そして、発想の転換により、最後を最初に変えようとする。そして、自然の素晴らしさ、他の生物とのふれあいをルナに教えてゆく。ルナは初めて「幸せ」を教わるのだ。

しかし、私は思う。ルナにとって、惑星の母、アカリからの何よりのプレゼントは、「あんたが最後の子供なら・・・あたしの人生、勝ちだったよ。ナイン移民は勝ちだったよ。あんたは・・・あんたは・・・凄い子供だ。あんたは、すっごい、最後の子供だ・・・」という言葉だったのではないだろうか。自分の存在を呪い、持て余していた孤独な老いた子供にとって、これほどの救いの言葉はないだろう。

少々文章に癖があるので万人向けとは言い難いが、軽くて重い、味のある佳作だと思う。

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