2014年7月26日土曜日

さよなら、こんにちは(荻原浩)



日常生活の場面場面をユーモアを効かせて切り取った、短編集。その視点やユーモアの効いた文体も、奥田英朗によく似ているな、と思った。特に、奥田英朗の「家日和」に。個性を競う作家にとっては別の作家に似ている、などというのは至極失礼なことかもしれないが。

娘の誕生の幸せをかみしめる葬儀屋、スローフードの料理研究家の多忙、それに寺の住職のクリスマス。職業的義務と一般人としての幸せのちょっとした矛盾のおかしみが描かれた作品や、思い込みからうっかり罠にはまる人々の話など7話が収められている。人生悲喜こもごも、悲しみの中におかしみが、喜びの中に皮肉がある。どの話でも、愚かさも含めて、人間が可愛く、愛おしく思えるような作品で、なかなか楽しめた。一読の価値アリかもしれない。

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2014年7月23日水曜日

神去なあなあ日常(三浦しをん)



林業がテーマの映画ができたらしい。しかも原作が三浦しをんらしいと聞いて読んでみたこの本。林業というマイナーなテーマをここまで親しみ易く、魅力的に面白く描いてくれた本はないのではないか、と思う。

何の進路も考えないまま、高校を卒業したちゃらんぽらん男子は、両親と担任の陰謀により山の中に林業研修員として放り込まれる。そこで、ゼロから林業を学び、村の文化に触れ、たくましく成長してゆく。人間離れした野生児やクールな美女、ユニークな村の人々に囲まれながら・・・。

特別なドラマがあるわけではない。しかし、日本古来の自然とそれによって育まれた文化がここには描かれている。神隠しや山の神といった超常的なものも、この山の中では不思議ではない。むしろ、科学的なものしか信じられない人間が、狭量でちっぽけに思えてしまう世界。現代人が忘れている、そしてこの人口減少の日本でなくなりつつあるそんな世界が生き生きと描かれていた。文体もちゃらんぽらん男子の日々の記録という形なので、読みやすいといえば、読みやすい。文学的な格調の高さは皆無だが。

普段は注目されることのない林業という世界を紹介してくれただけで、貴重な小説と言わなければならない。

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2014年7月15日火曜日

神様からひと言(荻原浩)



初めて読んだ荻原浩。なかなかよかった。勤めていた会社をクビになり、長年同棲した彼女に逃げられ、再就職先はトンデモ企業。さらにそこで問題を起こし、リストラ要員収容所とされる「お客様相談所」へ異動。人の罵倒を受け、平謝りするのが仕事となる。

冴えない若手サラリーマンのトホホ小説かと思いきや、なかなか読後感がよかった。コメディ調で、現実ではここまでユニークな人も大げさな状況もお目にかからないだろうが、上司への追従・おべっか、隠蔽体質、能無しの上司、理不尽な処遇など、サラリーマンなら共感するところも多いのではないだろうか。(幸い私はあまり実感をもって共感はできなかったが。)

読後感がいいのは、この主人公が最後まで諦めないことだろう。そして、悲惨な状況でも、何かしら学び取って、「何とでもなる」という境地に至る。何が大切なのか、なぜ彼女は逃げたのか、自分なりに答えを見つけ、活路を見出す。人生悪いことばかりじゃない、そんなことを示してくれるかのようだ。


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