2014年3月25日火曜日

モンスター(百田尚樹)



最近百田尚樹ばかり読んでいるような気がする。やはり読みやすいからだろうか。

醜悪な顔の女性が整形手術で生まれ変わる、そんな既に使い古されたストーリーだが、それなりに面白かった。今まで読んだ整形がテーマの話は、整形前後だけで、その過程が描かれていなかったが、これはその部分もリアルである。最初は目を少し変え、そのお手軽さと自分が美しく変わっていく奇跡にどんどんのめり込んでゆく。莫大なお金はソープに身を落として稼ぐが、それも最初はあまりの醜さにどのソープ店からもけんもほろろに追い出されてしまう。

「人間は外見じゃない」そういえるのはある程度普通の外見をもった人のことだろう。この主人公のように並外れて醜ければ、中身を評価してもらう機会さえ与えられない。拒絶され、無視され、差別され、そのうちに中身まで歪んでゆく。誰がそれを責められるだろう。

醜いという言葉は「見難さ」から来た、という台詞が本書の中にある。実際、私も直視することができなかった容貌の人にあったことがある。差別する気はなくても、目を合わせるのがつらい、そしてそうしている自分の内面の醜さを知りたくないゆえに、ついつい避けてしまう。申し訳ないと思いつつもそうせずにはいられなかった。

顔の良し悪しで性格が変わる、というのはわかる。私はアトピー持ちだが、アトピーが顔に出ているときは、人前に出たくないし、おしゃれをする気もなくなる。自分に自信がなくなって恋愛をする勇気もなくなる。だから、人並みはずれて醜い女性が、整形で人生を変えようというのはありだと思う。

主人公の整形手術をした美容外科の先生が言う。「私は、生まれついて美しい女性よりも、あなたの美しさのほうがずっと素晴らしいと思う。美しく生まれてきた女性が一体どんな努力をしたというのですか。(中略)しかしあなたは違う。自分の力で美しさを勝ち取った。同じ皮一枚でもあなたの方がずっと素晴らしいというのはそういうことです。」
なるほど、そういう考え方もあるのか、と思う。いずれにしても、すでに、顔の美しさも、人生の選択の一種となっているのだ。

しかし、この話では、整形による健康への影響は触れられていても、整形が失敗した、ということはない。整形をすればするほど主人公は美しくなってゆく。実際はそうでもないと聞く。

終わり方は、一応ハッピーエンドといえるのだろう。幼い日に恋し、ずっと憧れ続けた男に全てを打ち明け、嘘でもその男の愛を信じて逝けたのだから。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2014年3月22日土曜日

輝く夜(百田尚樹)



クリスマス・イブの奇跡を描いた短編5編。どれも、真面目でも幸福になる運に恵まれていなかった女性にクリスマス・イブに奇跡が舞い降りるという話だ。正直言ってしまえば、何だか説教くさい昔話の現代版のようで、青臭いな、と思った。希望を与えようとしているのが見え透いていて、胡散臭いというか。

それでも、どれもわかりやすく、読みやすく、希望がもてることは間違いない。特に、少々期が落ち込んでいるときに読んだので、タイミングがよかったのだろう。素直に、いい話だな、と思える部分もあった。

しかし、この作者は本当に書きたいテーマ、メッセージを直接、あからさまに送ってくるな、と思う。もうちょっとこれがさりげなくなれば、文学性が上がるのだが。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2014年3月19日水曜日

卒業(重松清)



家族の情景を描く第一人者、重松清の珠玉の短編集。相性がいいのか、今まで読んだ中で重松清の本にはずれはなかったが、この短編集も秀逸だった。


テーマは「卒業」だが、必ずしも学校からの卒業ではない。死という人生の卒業、今まで囚われていたものからの卒業、新たな出発という意味での卒業である。そして、4つの作品にはどれも、肉親の死が描かれている。


私が特に気に入ったのは、第4話の「追伸」だ。母をがんで失った少年と、継母の確執。不器用ながらも近づこうとする継母と拒絶し続ける少年。少年は青年になり、大人になっても、継母の存在を否定し続ける。そこにカツを入れる入れる妻が格好いい。最後の、「お母ちゃん」という呼びかけには、ありきたりの結末ながらも、味がある。

この作者の話は決して明るくない。むしろ、ほろ苦い哀愁がただよっている。しかし、その中にどこか懐かしい温かさがある。私のように、この温かさに引かれてどんどん次の作品へと手を伸ばす読者も少なくないことだろう。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2014年3月17日月曜日

ファースト・プライオリティー(山本文緒)



31歳の女性の生活を描いたショートショート。どれも10ページほどしかなく、余りにも短いので、起承転結はあまりなく、ただその女性の生活が描かれる。OL、子持ち、恋愛ニート、主婦、不倫。様々な31歳の女性がいる。特別ストーリーはないのだが、同じアラサーの私としてはなかなか興味深かった。

どれも、本人にとっては当たり前の日常。しかし、その生活、人生の何と違うことか。私の人生だって他の人から見れば相当変わっているのだろう。

なぜ31歳なのだろう。30歳ひとつの節目だ。ただ、大台に乗るときよりも、大台に乗って少ししてからのほうがその意味が一層感じられる。私がそうだった。30を越えたときはそれなりに誇りに思ったものだったが、少しして、30代という年齢の社会的認識に気づかされた。もう遊んでいてはいけない。腰を落ち着けなきゃいけない。若いから、では通用しない。

いろいろな立場の31歳が描かれていてなかなか興味深かったが、結局、皆何かしら自分なりの悩みや迷いをもっている。どんな選択をして、どんな人生を歩んでも。今まである程度築き上げたものを振り返り、立ち止まり、このままでいいのか、これからどうしたらいいかを考える。31歳というのは結局そんな年齢なのかもしれない。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

2014年3月13日木曜日

海賊とよばれた男(百田尚樹)



痛快としか言いようがない。言わずと知れた2013年本屋大賞受賞作である。出光興産を一代にして築き上げた出光佐三をモデルとした(というかそのまま)の血湧き肉踊る立志伝だった。

目先の儲けにこだわらず、国や時代に必要なこと、人のためになることを見つめ、実行した破天荒な男の生涯。しかし、「正しいこと」を有言実行するのには様々な困難と試練が伴う。突き当たる壁に怯むことなく果敢に挑戦し、突き破り、時代を作ってきた男の生涯は痛快だった。

企業の創業者といえば、ユニークな人物が多く、その人生はどれも波乱万丈だ。しかし、日本の代表的な経営者として大抵の日本人が思いつくのは松下幸之助、盛田昭夫、本田宗一郎などで、出光興業の創業者、出光佐三を思い浮かべる人はまずいなかっただろう。この本が出るまでは。

忘れ去られようとする歴史の中で、こんな日本人がいるということを教えてくれた作者にまずは感謝したい。人間やればできるんだ、そういう希望や勇気を持たせてくれる本を読めたことがうれしい。多少の脚色や物語を語る上でのご都合主義があったとしても。

それにしても、百田尚樹の作品はどれも単純明快だ。物語を流れるテーマやメッセージ、作者が書きたいと思ったものがはっきりしている。人によっては、訴えたいものがあまりにも見え透いていて白けてしまうかもしれない。しかし、私は読者に訴えたいものがそれほどまでにある作家の存在を頼もしく思う。特に、ちょうど転機を迎えている私にとっては、この作品はまたとない声援のように感じた。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村