2014年6月29日日曜日

アジアでのセクハラ体験



先週から随分、都議会でのセクハラヤジが取り沙汰されている。普段はほとんど脚光を浴びることのない都議会が、国際ニュースにも登場するほどだ。「外国ではこんなことはありえない、日本はなんて遅れた国なんだ」という意見が色々出ているが、ここでいう「外国」とは、あくまで西欧諸国だ。そこで、アジアの発展途上国で仕事してきた経験のあるものとして、今まで私が遭遇したセクハラをご紹介しよう。日本のセクハラの比ではない。

まずは、マレーシアから。多民族国家だが、イスラム教徒が多い。文化的に一夫多妻が認められているお国柄だ。仕事相手のチームに最近2番目の妻結婚式をあげたという男性がいた。最初の妻も健在だ。休憩中その話になり、まわりの男性から、羨望やからかいを兼ねたお祝いの言葉をかけられていた。

(最悪。2人妻をとるなんて、やらしい!)という心がつい顔に表れていたのだろう、「どうしたんだい?あまり面白そうじゃないが。」と声をかけられた。
「結婚はおめでたいことだとは思うんだけど、ただ、私は女だから、男が複数の女を妻にもつっていうのが好きじゃないの。奥さんたちのことを思うとあまり素直に祝福できないわ。」と言うと、
「ははあ。まあ、君が女性の権利を主張したいのはわかるけどね、でもそれも必ずしもいいこととは言えないね。家庭の平和のためにも。」
「どういうことですか?」
「女が男に対して何かを言おうとすると、家の中で口論になるだろう。だから、家庭が穏やかでなくなる。」
「どういう意味?じゃあ女が男に対して不満があったらどうするの?」
SHUT UP!(黙れ!)」
そこで、そこに居合わせた男性陣皆大笑い。私の質問が終わるか終わらないかのうちに発せられたSHUT UPの言葉には、私の質問への回答と同時に、私に対して「黙れ!」と言っているようにも感じた。

私は頭に血が上ったが、押し黙るしかなかった。多勢に無勢だし、こんな奴らなんか相手にする価値もないと自分に言い聞かせた。それにしても腹が立つのは、その男の言葉だけではなく、周りの男たちが大笑いしたことだ。都議会でも、ヤジの後、多くの笑いが浴びせられたという。ヤジ以上に腹立たしい。

それにしても、私は外からの専門家(まだ見習いだったが)、ある意味客としてそこにいたのだがこの対応。その社会に生きている女性の苦労が思いやられる。

次はインド北部から。インドの中でもとりわけ貧しく、女性の地位が低い地域として知られている州だった。そこで仕事で訪ねた企業ははじめから常識はずれの対応だった。空港に3時間も迎えに来ない、迎えに来た車に人数分の座席がない、朝はまたホテルに迎えに来るはずが大幅に遅れる。自分が招待したディナーに現れない。2日目、お詫びにと招待したディナーにさらに遅刻し、こちらが勝手に食べ始め、食べ終わったころにようやく姿を現した。普通なら合わせる顔もないと思うのだが、悪びれもせず、お詫びにと食後のバーへと私たちのチーム4人を誘った。私以外は皆、男である。そこで、誘いに応じ、私たちが席を立とうとすると、私に対して
No woman please!」(女は来るな)
と一言。夜のレストランに私一人を残して男だけでどこかに繰り出すつもりだったのか。あまりのことに私は怒りとショックで呆然。一人で帰ろうにも、ホテルへの帰り方さえわからないし、夜のインドの街を女一人で歩けるものなのか。

しかし、そこは一緒にいた老紳士に助けられた。老紳士は、元インド政府高官、引退後専門性を活かしたアドバイザーなどをしており、私の仕事のチームに参加していた。70に手が届こうかという年齢だった。
「お前ら、何だその態度は!それでもインド人か!恥ずかしくないのか!女性には敬意を表すべきだろう。礼儀というものを知らんのか!」
彼は私のために怒りを爆発させてくれた。その老紳士は一人、バーへの誘いに応じず、私とレストランに残り、ホテルまで一緒に帰ってくれた。
「全く恥ずかしい。これがインドだと思わないで欲しい。インド人は本来、女性を尊重し、大切にするものなんだ。」と繰り返し言いながら。

都議会のレベルの低さは、ヤジの内容もさることながら、それを止めない議長や一緒になって笑う議員に現れている。暴言より、そのあとの笑いの方が痛い。東京都議会にあのインド人の老紳士のような人が一人いれば、だいぶ救われたのだが。

2014年6月27日金曜日

空飛ぶ広報室(有川浩)



航空自衛隊の広報室というユニークな舞台で繰り広げられる人間ドラマを描いた小説。有川浩はほかにも自衛隊を題材とした小説を書いているが、自衛隊が好きなのだろうか。一般人には理解されにくい自衛隊という組織の中で唯一民間との関係をもつ広報という仕事を縦糸に、そこに生きる隊員の人生を横糸に描かれる物語。この小説が実際の自衛隊とどのくらい近いものかは知らないが、この本によって自衛隊が身近になるのは間違いない。ある意味、この本自体がいい自衛隊の広報になっている。

主人公は、子供の時から自衛隊のブルーインパルスのパイロットになることを夢見て自衛隊に入り、実際にブルーインパルスに入ることが決まった矢先、不慮の事故に巻き込まれ、夢をあきらめざるを得なくなった自衛隊員。新しく広報という仕事が与えられるが、その中で新たな自分の道を見つけていく。しかし、この話、広報室のメンバーのひとりひとり、およびそこを長期取材する記者の人生にもスポットが当てられ、ある意味、みんなが主役、といった体を醸し出している。男世界の自衛隊の女性士官ということで苦労し、自己防衛のためかオヤジ化した美女に、それを見守るかつての後輩。あこがれの記者の職を下ろされた後八つ当たり気味に自衛隊に偏見をもって取材に当たる女性ディレクター。皆、個性的だ。


この著者の作品はいくつか読んでいるが、どの作品にも共通なのは、登場人物が皆善人だということだ。ひとりひとり個性はあるものの、基本的に嫌な奴というのが出てこない。そして、登場人物に思いやりがあり、人を傷つけてしまったかとよく悩む。しかも、その傷つき方は、文学っぽく情景で表現されるのではなく、直接的に考えているそのままの言葉で、理詰めで説明されるのだ。登場人物には作者の性格が少なからず投影されるが、作者のやさしい性格がわかるようだ。ただ、物語の深さといった点では少々物足りないかもしれない。



結局はラブストーリーと思いきや、最後がぼかしてあることで陳腐さがない。ライトノベル風だが、自分の知らない世界を教え、楽しませてくれたという点で、なかなかヒットな作品だった。
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