2014年5月2日金曜日

オレたちバブル入行組(池井戸潤)



去年ドラマ化され、話題となった半沢直樹シリーズ第1作目。海外にいる私は流行りものには疎いのでドラマは全く見なかったが、なかなか面白かった。隠し財産を持ちながら計画倒産し、5億を踏み倒した債権者を追っていく様子は、経済小説というよりは、刑事ものを読んでいる感覚だった。まだ、腐敗した上司を追い詰めていくのも、現代版時代劇といった感じだ。

経済に疎い私でも無理なく理解でき、ストーリーを楽しめ、銀行という組織の理解を深められた。作者が元銀行員というだけあって、多少誇張されたところはあるかもしれないにせよ、なかなか現実感がある。

しかし、減点主義のトーナメント式昇進システム、間違えたらそれで終わり、という組織のあり方が本当なら、それを知ってこんなところに就職を希望をする人はいるのだろうか。人間は間違えながら学ぶものだ。間違えてはいけないということは即ち学ぶ機会が与えられないということだ。エリートか何だか知らないが、かわいそうな仕事だと思う。

また、この半沢直樹という男、どうにも私のタイプではない。彼の流儀である「やられたら、倍返し!」というのは昨年の流行語にもなったらしいが、これを人は格好いいと思うのだろうか。私は、なんとも子供っぽいと思った。何て人としての器が狭いのか、と。

倍返しなんてものがまかり通ったら、世の中永遠に平和は訪れない。最後に木村に土下座させるのも、えげつないと思う。なぜそこまでしなければいけないのか。すべてわかっていながら、寛大に許してやり、敵をも味方につけるというのが本当の人格者というものだ。

人のプライドをけちょんけちょんに否定することは、一時自分のプライドを満たせても、長期的には自分のためにもならない。プライドを傷つけられた人たちが、いつどのように自分に「倍返し」にでるか、わかったものじゃない。

「倍返し」の流儀は、将来の火種を作り、自分を不安定にするだけだ。それでも、一時的な「勝利」に多くの読者は胸のすく思いをするのだろうか。

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