2014年5月4日日曜日

オーデュボンの祈り(伊坂幸太郎)



これは伊坂幸太郎の処女作だそうだが、私が読んだのは「砂漠」「重力ピエロ」に次ぎ、これで3冊目だ。前に読んだ2作でも独特の世界が十分伺えたが、この処女作からはさらにその作者の本質、作風がより純粋な形で見られた気がする。

なんとシュールで独特な作品なのだろう。現実ではありえない世界をそれでも非論理的な理屈で描いていく。カカシがしゃべり、未来を予見する世界のことなのだから、どんな理屈だって小説のなかでは論理として通るのだ。この点、少々村上春樹に似ているかもしれない。

気まぐれでコンビニ強盗未遂をした男が目覚めたのは、存在を忘れられた島だった。外界と接触を絶ったその島には、言葉をしゃべり、未来を知るカカシ、悪人を独断で殺しながら、島民には「ルール」として受け入れられている「桜」という男、嘘しか言わない画家、地面に寝そべって心臓の音を聞く少女、太りすぎて動けなくなった「うさぎ」という女、など奇妙な人々が住んでいる。しかしある日カカシが殺(壊)される。それに続く殺人事件。未来を知っていたカカシはなぜ殺されたのか。

このハチャメチャの設定で、どう収拾つけるのかと思いきや、すべての伏線は確かに最後で回収される。それにもかかわらず、どうも肩透かしをくらったように感じるのは私だけだろうか。この読後感、やっぱり村上春樹に似ている。独自の世界を持っているという点で、それだけでも評価されるのが現代小説なのだろう。しかし、抽象画やだまし絵のようで、確かな意味が読み取れないこの作品は、私の好みではあまりなかった。しかし、村上春樹が好きな人なら、この人の本もきっと好きになるだろう。

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