2014年6月27日金曜日

空飛ぶ広報室(有川浩)



航空自衛隊の広報室というユニークな舞台で繰り広げられる人間ドラマを描いた小説。有川浩はほかにも自衛隊を題材とした小説を書いているが、自衛隊が好きなのだろうか。一般人には理解されにくい自衛隊という組織の中で唯一民間との関係をもつ広報という仕事を縦糸に、そこに生きる隊員の人生を横糸に描かれる物語。この小説が実際の自衛隊とどのくらい近いものかは知らないが、この本によって自衛隊が身近になるのは間違いない。ある意味、この本自体がいい自衛隊の広報になっている。

主人公は、子供の時から自衛隊のブルーインパルスのパイロットになることを夢見て自衛隊に入り、実際にブルーインパルスに入ることが決まった矢先、不慮の事故に巻き込まれ、夢をあきらめざるを得なくなった自衛隊員。新しく広報という仕事が与えられるが、その中で新たな自分の道を見つけていく。しかし、この話、広報室のメンバーのひとりひとり、およびそこを長期取材する記者の人生にもスポットが当てられ、ある意味、みんなが主役、といった体を醸し出している。男世界の自衛隊の女性士官ということで苦労し、自己防衛のためかオヤジ化した美女に、それを見守るかつての後輩。あこがれの記者の職を下ろされた後八つ当たり気味に自衛隊に偏見をもって取材に当たる女性ディレクター。皆、個性的だ。


この著者の作品はいくつか読んでいるが、どの作品にも共通なのは、登場人物が皆善人だということだ。ひとりひとり個性はあるものの、基本的に嫌な奴というのが出てこない。そして、登場人物に思いやりがあり、人を傷つけてしまったかとよく悩む。しかも、その傷つき方は、文学っぽく情景で表現されるのではなく、直接的に考えているそのままの言葉で、理詰めで説明されるのだ。登場人物には作者の性格が少なからず投影されるが、作者のやさしい性格がわかるようだ。ただ、物語の深さといった点では少々物足りないかもしれない。



結局はラブストーリーと思いきや、最後がぼかしてあることで陳腐さがない。ライトノベル風だが、自分の知らない世界を教え、楽しませてくれたという点で、なかなかヒットな作品だった。
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