2013年5月14日火曜日

ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー(山田詠美)



最近ニューヨークに行ったので、ニューヨークっぽいものを読んでみた。この割と薄い本の中には8編のアメリカの黒人たちを主人公とした短編恋愛小説が収録されている。それはバーの音楽、お酒、セックスに彩られ、ブラック・アメリカンな文化がほとばしっている。まさにこの文化に惹かれ、好んで黒人の中に身を置き、交わり、数年を過ごした作者しか描けないような生きたアメリカの黒人の恋模様がここにある。

どの話も性が濃密に描かれており、従来の日本文学にはないほどセクシーだ。性を切り離した愛はあり得ないし、愛は性の中で育まれるもの、というように。かなりどぎつい性の表現も、この中では、人間の愛の表現として当然のものと受け止められる。ある意味、愛と性が直結する恋愛模様は、とても人間らしい。そして、とてもあっけらかんとしていて、嫌らしさがないのだ。

むしろ、性がいやらしいものとなるのは、ケチな道徳などを持ち出したときなのかもしれない。本来、性は自然な愛の表現であり、喜びなのだ。そんなある意味原始的な彼らを、作者はこう評する。「自堕落でやさしくて感情を優先させる自意識の強過ぎる、そして愛に貪欲な彼らが大好きである」と。「私の心はいつだって黒人女(シスター)だよ。日本語をきれいに扱えるシスターは世の中で私だけなんだ。」という作者。確かに、魂まで黒人と同化していなければこんな話は書けないかもしれない。

しかし、この話は英語で読んだらさらによかったことだろうと思う。あちらこちらの文章で、「これ、英語を翻訳した?」と思わせるような、英語でのほうが自然だろうという表現が見受けられた。特に、登場人物の台詞は、黒人英語がそのまま聞こえるようで、作者も頭の中ではきっと英語で書いていたのだろう。しかし、日本ではない話なのだから、多少のぎこちなさは仕方ない。日本人のほとんどは縁のない黒人文化の魅力、そしてそこに生きている人々の生の恋愛模様を教えてくれただけでも感謝するべきなのだ。
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