2013年9月20日金曜日

とんび(重松清)



心温まる父と子のストーリー。最愛の妻を早くに亡くし、幼い息子を一心に愛し、子育てに奮闘する不器用な父。それを見守る、近所の人々の温かい目。どんどん成長していく出来のいい息子と、子離れができず苦しむ父。昭和の次代を背景に、それに取り巻く人々の人生が交差し、物語を織り成していく。

この物語には悪人が出てこない。皆、互いを思いやりながら不器用に幸せを探し続け、時には傷つけあい、それぞれの人生を受け入れてゆく。主人公の親父、ヤスさんはまさに昭和の親父そのもので、自分が生きていたのでもないのに、何故か懐かしくなってしまう。

心に残った言葉。
「健介のことも、生まれてくる赤ん坊のことも、幸せにしてやるやら思わんでええど。親はそげん偉うない。ちいとばかり早う生まれて、ちいとばかり背負うものが多い、それだけの違いじゃ。」
「わしが備後におらんと、おまえらの逃げて帰る場所がなかろうが。・・・ケツからげて逃げる場所がないといけんのよ、人間には。錦を飾らんでもええ、そげなことせんでええ。調子のええ時には忘れときゃええ、ほいでも、つらいことがあったら備後のことを思いだせや。最後の最後に帰るところがあるんじゃと思うたら、ちょっとは元気がでるじゃろう、踏ん張れるじゃろうが。」
なんてあたたかい言葉なんだろう。私にとっての「家」も、まさにそんな存在だ。その存在を、改めてありがたいと思う。

家族という当たり前の存在と、人間同士の繋がりを気づかせてくれ、なんともあたたかい読後感に包まれる、いい作品だった。

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