2014年3月3日月曜日

「在外」日本人(柳原和子)


今までの人生に一番大きな影響を与えた本は何か、と聞かれたら、この本を挙げるだろう。

読んだのは高校生の時だったか、大学生になってからか、また読んだきっかけも何だったかはっきりしない。ただ、圧倒された。

これは、海外に住む日本人108人のドキュメンタリーである。年齢も職業も在住年数も様々、国際機関で働くエリートや世界で認められた指揮者から、流れるようにしてあちこちを渡って来た女性、その身一つでビジネスを起こしたビジネスマン、研究者など様々だ。しかし、ひとつひとつにドラマがあり、そこに流れる歴史がある。そこにいた日本人の目から語られる世界史がある。

1994年という冷戦崩壊後間もない時に書かれたため、冷戦に関する話も多い。東西の間で引き裂かれた恋もあれば、戦後からずっと中国と共に生きてきた日本人もいる。日本のビジネスの先鋒として海外市場を切り開いてきたビジネスマンや、新天地を求めて移住した者、戦争花嫁としてアメリカに渡り、惨めな生活を送る女性。発展途上国の現場で様々な問題に取り組む人々。インタビューを通して語られる話はまるで映画のようにドラマチックで生々しく、面白い。

少なくとも10年以上前に読んだこの本を、たまたま実家に帰省した際本棚に見つけた。私は海外の大学・大学院を出てインドネシアに住み、今はまぎれもない「在外日本人」になっている。今更この本を読もうと思ったのは、自分の原点を探したかったのかもしれない。

この本に描かれている人生は決して成功例ばかりではない。歴史に翻弄された人生や苦労だらけの話も多い。それでも、私はこの本に描かれている人々の生命力に憧れた。苦労をしても、失敗してもその人だけのユニークな人生を選んで歩いた人々の強さ、潔さが眩しかった。日本の有名大学を卒業し、大企業に入り、平凡な家庭を築く、そんな人生がとてつもなくつまらないように思えた。

108人の話の中で、まともに覚えているものなどほとんどなかったが、印象が強かったのは国際機関で働く人々や大企業のビジネスマンの話ではなく、海外で紆余曲折を経てきた開拓者や戦争花嫁の話だ。海外に出るというリスクをまさしく体現している人々の手記は生々しかった。

私は海外の何に憧れたのか、今改めて考えてみる。そして思う。ここに描かれている、海外でたくましく生きる人々も、海外に生き続けることに悩んだこともあったに違いない。今の私のように。

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