2014年3月19日水曜日

卒業(重松清)



家族の情景を描く第一人者、重松清の珠玉の短編集。相性がいいのか、今まで読んだ中で重松清の本にはずれはなかったが、この短編集も秀逸だった。


テーマは「卒業」だが、必ずしも学校からの卒業ではない。死という人生の卒業、今まで囚われていたものからの卒業、新たな出発という意味での卒業である。そして、4つの作品にはどれも、肉親の死が描かれている。


私が特に気に入ったのは、第4話の「追伸」だ。母をがんで失った少年と、継母の確執。不器用ながらも近づこうとする継母と拒絶し続ける少年。少年は青年になり、大人になっても、継母の存在を否定し続ける。そこにカツを入れる入れる妻が格好いい。最後の、「お母ちゃん」という呼びかけには、ありきたりの結末ながらも、味がある。

この作者の話は決して明るくない。むしろ、ほろ苦い哀愁がただよっている。しかし、その中にどこか懐かしい温かさがある。私のように、この温かさに引かれてどんどん次の作品へと手を伸ばす読者も少なくないことだろう。
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