2013年10月20日日曜日

波のうえの魔術師(石田衣良)



石田衣良の小説はこれで4,5冊目になるだろう。今まで読んだのは10代から20代の青春を軽く、ミステリー調に描いたものが多かった。これもその類には違いないのだが、題材が、経済、株だ。私は経済にはかなり疎く、円やドルマークがついているだけで拒否反応起こしてしまうのだが、これは専門的な部分を多少読み飛ばしてでも、楽しめた。むしろ、普段は全く親しまない世界を垣間見れたことで、読んだ意義は大きかった。

タイトルにある「波」は、マーケットの数字の波だ。波の頂点で売り、底で買うマネーゲーム。プータローだった主人公は、怪しげなマーケットの「魔術師」に見出され、弟子となる。彼の市場人生の最後を飾る「秋のディール」を手伝うために。それは、無知な老人を変額保険という罠に巧みにはめ、財産を汚く奪い取った銀行を陥れる復讐計画だった。情報操作とでっち上げによってターゲットの銀行の株価を貶める。そして同時に儲けようという策謀である。

調べてみてわかったのだが、実際にバブルの頃にはこの話に描かれている変額保険は存在し、その被害も問題になったらしい。経済には全く無知な私は、また少し賢くなった、と得した気分になる。復讐という側面がなければ、まったく小汚いマーケット操作による犯罪そのものなのだが、被害者となった女性を思う「魔術師」の純情で、物語としてだいぶ救われている。この「魔術師」の純情や、主人公が拾われて投資家としての才能を開花させてゆく様子などは、石田衣良の小説に共通するライトノベル調だが、まあ実際にフィクションなのだから、現実性よりもエンターテイメントとして楽しめたほうがいい。

完全に経済素人の私には、どこまでが現実に取材されたもので、どこからが完全にフィクションなのかあやふやなのだが、現実をモデルにしたフィクションというのは、そういうものなのだろう。宮部みゆきの「理由」では占有屋の存在を、幸田真音「日本国債」では日本国債のしくみを勉強させてもらったが、この本を読んで少し株という世界が身近になったように思う。自分で手を出そうなどとは絶対思わないが。

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