2013年4月3日水曜日

邂逅の森(熊谷達也)


山本周五郎賞と直木賞をダブル受賞した作品。明治末期・大正の東北の山々を舞台に1人の伝統的猟師、マタギの男の一生を描いた佳作だ。読み応えのある本だった。今はほぼ失われてしまったであろうこの自然・伝統・風土が並々ならぬ筆致で描かれ、本の中に1つの世界が完成されている。行間から、森の風、動物の声、猟師の汗のにおいなどがにじみ出てくるようだった。ストーリーとして意外性があるというわけではないが、その世界観が壮大で、また、出てくる人間も非常に人間くさく、読み応えがあった。エンターテイメントとしての小説というより、やはり人間や文化を描く文学、といった位置づけだろう。東北のズーズー弁と、マタギ特有の言葉、それにマタギ独特の哲学。その土臭い世界が何とも新鮮で、かっこよくさえある。この本に描かれる、平凡だが誠実に生きた男の軌跡。それに交わる人々の人生。過ぎ去った時の中に埋もれてしまった世界をこの本は見事に再現してくれたと思う。この本を通してマタギの世界を垣間見ることができ、幸運だったと思う。この本に描かれた、日本の昔ながらの山々を是非訪ねたいと思わせる本だった。


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