2013年7月15日月曜日

断食、始まる



気がつくと、周りでは断食が始まっていた。1年に一度のイスラムの行事、断食(ラマダン)。どうやら先週から始まっていたらしい。世界一のイスラム大国、インドネシアでもバリでは現地の人はヒンズー教が主だが、他の地方から来たイスラム教の人も実は結構いる。うちの事務所では、半数がイスラム教で、断食をしているはずだ。イスラム教徒にとって、断食は、自身を清め、節制し、精神性を高める大切な行事だ。

断食中は日の出ている間、何も食べることも飲むこともできない規則となっている。じゃあ日の出直前に食べたほうがよさそうだと思うが、そうもいかない。朝食は空が白み始める頃には食べ終えていなければいけないので、皆、朝3時とか4時に食べ始める。そして、長い一日を終えた後、日没とともに再び飲食することが許されるのだ。

宗教一般に関して「面倒くさいもの」としか思わない罰当たりな私だが、やたらと戒律、規律の多いイスラム教の行事の中でも、この断食は私にとって特に理解不能なものだ。胃袋がもたない私は、毎年、この断食を行う同僚を見て感心する。彼らは平然とした顔で、「慣れると大したことない」とか、「断食は体にいいから、一度やってみれば?」なんて言うが、実際、よくもまあ、何も食べずに1日中働けるものだと思う。しかし、他人のやることにどうこういう筋合いはないが、異文化・異教徒の私にとっては、どうしてもこの断食の弊害のほうが目についてしまう。

まず、一見、普通通り働いているようにみえるものの、日の出前に朝食をとるために睡眠時間を削られ、日中の栄養補充ができないため、やはり集中力に欠き、注意力散漫な気がする。断食月の間は、日没ちょうどに家で食事を取るため、皆、早めに帰宅する。出勤時間は同じなのに。イスラム教徒の人が、断食月に残業することはどんなに仕事がたまっていたとしてもありえないだろう。そして、断食している間はスタミナがなく、疲れやすいので、面倒くさいこと、大変なことは後回しとなる。断食月にイベントなど計画しようものなら、誰も出席しないし、イスラム教徒の手前、食べ物を提供することさえはばかられるので、悲惨なことになる。この聖なる月には、あらゆる経済活動は停滞するので、決して生産的な月とはいえない。

また、イスラム教徒は、「断食は体にいい」と断固として言うが、それはむしろ信仰であって、実際にはいろいろな健康的弊害が認められている。その中でも衝撃的なのが、妊婦の断食による胎児への影響だ。

妊娠中に断食をした妊婦から生まれた子供は、そうでない子供と比べて体が小さく、障害をもつ割合は20%も高い。しかも、特に妊娠初期に断食をした妊婦からの子供にその影響は顕著だ。一般に、妊婦・授乳中の母親、病人などは、断食が免除されている。しかし、妊娠の一番初期となると、自分が妊娠していることを自覚していない場合も多いだろう。妊娠を知らせてくれる体の変化も、断食の中ではわかりにくいかもしれない。断食で生理不順になったり、脱水症状で気分が悪くなることはよくありそうだ。妊娠を告げるはずのつわりや、生理が来ないことも、断食による体調不良にまぎれてしまい、妊娠がわかるのが遅れることもあるのではないか、と思う。神へ祈りを捧げるための断食で、生まれた赤ん坊に障害が出るだなんて、なんたる皮肉だろう。イスラム教の神様もなんて理不尽なことを強いたものだと思ってしまう。こんなことを防ぐために、既婚の出産可能年齢の女性には断食を免除したほうが無難だと思うのだが、そんなことを言おうものなら、イスラム教徒への冒涜と取られかねない。

断食をしている妙齢のイスラム女性を見ると、つい心配になってしまう。もしかして、お腹に赤ちゃんいる可能性ない?妊娠中は神様よりも、まず赤ちゃんのことを考えてしっかり食べようね、と心のなかで呼びかけてしまう。いや、まったく大きなお世話なのだけれど。

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