2013年7月23日火曜日

レインツリーの国(有川浩)



久しぶりのライトノベル。単純なストーリーの現代風の恋愛小説、といっても出会いがインターネットで、やり取りがメールというのは現代的だが、むしろ登場人物は純朴、真面目そのものだ。前に読んだ有川浩の「空の中」はSF味で、テンポの速さや展開も典型的なライトノベルだったが、この小説はそんなスタンダードなライトノベルよりも、いささかテーマが真面目で、エンターテイメント性があまりない。

忘れられない本の感想をきっかけにインターネットで知り合った20代後半の男女。互いに惹かれあい、会うことに決めるが、彼女には難聴という障害があった。彼女を理解しようと歩み寄る彼と、どうせ他人にはこの痛みはわからないと投げやりになる彼女。特別に何が起こるというわけでもなく、2人のメールのやり取りで物語りは続いていく。

あとがきで、作者は、「書きたかったのは『障害者の話』ではなく、『恋の話』です。ただヒロインが聴覚のハンデを持っているだけの。」と書いている。実際、そんな感じだ。テーマは障害というよりも、人それぞれの痛み、というべきだろう。

この物語の中で、全く種類は違うが、彼氏のほうもやはり他の誰にもわからない痛みを抱えている。障害だからといって、壁を作り、いじけてしまっているのは彼女に、彼氏は、その痛みを突きつける。自分は障害は持ってはいなくても、やはり彼女が理解できない痛みを抱えているのだと。皆、それぞれに何かしらの悲しみや痛みを抱えている。しかし、その痛みは他人が理解することはできないし、本人も他人にはわかるはずもないと思っている。そして自分の痛みを盾に、自分が相手の痛みをわからないことに気づきもしない。私にも身に覚えがあるので、身につまされた。悲しみや痛みなんて、比べられるものではないのだけれど。

この作者の文章は、気取っていなくて、さらりと読める。読み応えがある、とは言えないが、疲れたときにでも、別のヒット作品をまた、是非読んでみたいと思った。

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