2013年3月5日火曜日

幻色江戸ごよみ(宮部みゆき)



これは、私が始めて読んだ宮部みゆきの時代物だった。そして、本当に読んでよかったと思った。宮部みゆきは好きだけれど、時代ものは避けていたのだが、なんて馬鹿だったのだろう、と思った。以来、「ぼんくら」「日暮し」シリーズなどを読み進めている。

この本は、江戸の市井の人々の暮らしを描いた12本の短編をまとめたものである。押しも押されぬ人気ミステリー作家だが、この人ほどまた、江戸情緒を文章ににじませることが出来る人も少ない。この短編集の中では、江戸の人々の生の暮らしが、肌をもって感じられる。中には怪談めいた話や、多少おかしな話、貧乏ながらも必死に暮らす人々のやるせない悲劇が描かれたものもある。

特に私が好きなのは「首吊り御本尊」という話だ。奉公が辛く、首を吊ろうと思って行った土蔵には、首吊りの先客がいた―。にこにこ上機嫌で首を吊り、首を吊りにくる奉公人たちを「ここはもういっぱいだよ」と言って追い返す、奉公人の神様、首吊り御本尊。

12話のひとつひとつに大江戸の市井の人々の素朴な暮らしの中にあるおかしさ、温かな人情味、せつなさ、やるせなさがちりばめられ、決して飽きさせない。どの話もまとまりがよく、読み終わった後に、何かを感じさせてくれる。宮部みゆきの時代物を読んだことがないという人は、是非、この本を読んで見てほしい。宮部みゆきの江戸ワールドに病み付きになること間違いない。

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