2014年1月15日水曜日

みぞれ(重松清)



人生の色々な局面を描いた短編集。多くは、あまり明るくない状況、複雑な思いを描いたものだった。例えば、一世を風靡したアイドルグループの、売れないメンバーのその後。誠実に励ましたつもりの生徒から暴力を奮われ、退職した元教師。どちらかがリストラされることになった同期社員2人。父の最期を看取ろうとする息子。重松清はそんな迷える立場の人々の心を描くのがうまい。人の弱さを温かく見守り、受け止めるようなやさしさがある。

この本には11編の短編が収録されているが、その中で特に私の心を捉えるのが、「石の女」と「ひとしずく」の2編だ。どちらも子供の出来ない夫婦を描いたものである。「客が来なければ食卓の椅子が埋まらない夫婦だけの暮らしを「寂しい」と呼ぶひととは―何でも言う、ぼくは決して付き合いたくない。」そういいつつ、誰よりもその暮らしを寂しく思っているだろう「ぼく」。なぜこの作者は自分が立たされたことのないはずの弱い立場がこうまでわかるのだろう。

この短編集には、じわっとした感傷的な趣がある。ついこの間読んだ、家がテーマの奥田英朗の短編集「家日和」とは対照的だ。奥田英朗には、惨めなはずの境遇も明るくするひねり、おかしみがあったが、この重松清はありのままの感情をそのまま描き出す。作風の違いを知って、気分に合わせて、読む本を選んでみたい。

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