2014年1月7日火曜日

流星ワゴン(重松清)



リストラされ、再就職の見込みは立たないままの主人公、カズ。中学受験に失敗した息子は仕方なく入った公立中学でいじめを受け、登校拒否・引きこもり。妻は不倫を重ねた果てに離婚を申し立てる。一方、わだかまりを抱えたままの父親は危篤。死んでもいいかな、と思ったときに現れたのは、5年前不慮の事故で死んだ父子の乗ったワゴン車だった。時空を越えたワゴン車に導かれ、「大切な場所」をめぐることになる。それは、もしその時に違った選択をしていれば、全く違った未来があったかもしれない、そんな運命の分かれ道だ。

辛い過去を振り返る「大切な場所」めぐりの中で出会ったのは、同い年の姿をした、危篤状態にあるはずの父だ。自分と同い年の父親と、妻や息子の異変を見抜けなかった、辛い過去の岐路をめぐる旅。ワゴンの主の事故死した父子、主人公と同い年になったその頑固親父、そして主人公と引きこもりの息子、どれも不器用な3組の父子のすれちがいが交錯する。

「分かれ道は、たくさんあるんです。でも、そのときにはなにも気づかない。みんな、そうですよね。気づかないまま、結果だけが、不意に目の前に突きつけられるんです。」
過去への旅で同じ過ちを繰り返すまいとするカズ。しかし、旅を終えたとき、帰って来た現実は何も変わっていない。それでも気づかなかった過去の過ち受け止めたことで、また、父親と分かり合えたことで変わった何かがあった。苦しい現実と向き合う気力、それが過去への旅からの土産だ。

これは、ファンタジー、メルヘンだ。実際に人生の岐路となった時点に戻れるわけもないし、親と同い年になって対等に会話が交わせるわけもない。しかし、ストーリーよりも、描かれているものの中身は普遍的だ。

これは、父と息子の話で、著者自身もあとがきで書いているが、女性の活躍が極端に少ない。だから、女性の私には多少入っていきにくいのだが、それでも、3組の父子の葛藤・愛憎、すれ違う愛情にじんと来た。子供の時に見上げていた父の姿と、同年代として見た等身大の1人の男としての父親の姿。これが父でも息子でもある立場の男性なら、涙なしでは読めないだろう。女性の私は、これが母娘だったらどんな話になるだろう、とつい思ってしまうが。

この作者の作品は「とんび」に続いて2作目だが、弱者を描く、温かい筆致が好きだ。両方とも、読んだ後、心にじわっとくるものがある。そういえば、「とんび」の父親と、この「流星ワゴン」の主人公の父親はよく似ている。昔ながらの頑固親父。きっと作者の父もそんな頑固親父だったのではないか、と思う。現実では決して同い年の朋輩にはなれない、世の父子に送る、メルヘン。男性にはちょっとおすすめかもしれない。

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