バリに住んで何が一番いいか、とよく聞かれる。バリはきれいだし、東京みたいにあくせくしていないし、人間も温かい。いろいろな国籍の人と交流できるのもいい。でも、私にとって何が一番いいかときかれたら、アトピーが出ないことだろう。
私はアトピー患者だ。でも今私と会って私がアトピー患者だと分かる人間はいないだろう。「その年に見えない」とよく驚かれるほどのすべすべお肌だ。でも残念なことに、治ったのではない。日本に帰るとまた出る。そして日本を出るとまた治る。その繰り返しだ。時々冗談交じりに「私、日本アレルギーなの」と言っているが、半分は事実である。
日本ほどアトピー患者が多い国はない。日本ではアトピー特有の赤ら顔をした人をよく見かけるが、海外ではそんな人はほとんど見かけない。アトピーは環境病だと言われているが、まさにその通りだと思う。何か、日本特有のものが原因ではないのだろうか。そうでなければ私の症状の説明がつかないのだ。
私のアトピーは小さいときからのものだが、特に高校時代はひどかった。痒くて休み時間ごとにトイレに駆け込み、体を掻く日々。掻いちゃいけないとわかっていても、耐えるのは地獄の苦しみだ。掻きすぎて傷ができ、私の下着はどこかしらにいつも血や生臭い黄色の汁がついていた。アトピーが一番現れるのは顔、特に目と口のまわりで、自分の顔を鏡で見るのが辛かった。ステロイドで抑えていたが、ステロイドをやめようとするとすぐぶり返す。10代の女の子が一番輝くとき、アトピーでぼろぼろの顔と体ではおしゃれをする気にもならず、痒みとの戦いに毎日神経をすり減らす日々。勉強もまともに集中できなかった。しかしそれよりも、毎日私の顔を見るたびに母がため息をつくのが辛かった。アトピーのない世界をどんなに夢見ただろう。アトピーにいいといわれる不味いお茶を毎日飲んでも、甲殻類にアレルギーがあるといわれてエビ・カニを食べないようにしても、何も変わらなかった。辛い痒みに、やはりステロイドを頼ってしまうのだった。
私がアメリカへの留学を決めたのはいろいろ理由があったが、親が簡単に同意したのは、もしかしたらアトピーのお陰もあったと思う。環境を変えたらアトピーが良くなる、というのは聞いたことがあったはずだから。結果からいえば、留学は大成功だった。英語が習得できたことや、異文化で様々なことを経験したことももちろん良かったが、場所によってアトピーが出ないところもある、ということがわかっただけでも、素晴らしい成果だった。
私の留学先はオハイオ州の田舎だった。最初、比較的大きな州立大学で2,3ヶ月英語研修を受け、その後オハイオの片田舎にある大学で4年間を過ごした。行くとき、向こうでも当分は困らないようにとどっさりステロイドを持っていったが、結局ほとんど使わずに終わった。最初の1週間ほどで驚くほど痒みがなくなり、1ヵ月後にはアトピーがあったとはとても思えないきれいな肌になった。留学生活はもいろいろ大変だったが、大学4年間あの痒みに煩わされずに思う存分勉強できただけでも万々歳だった。卒業するころには、もしかして、アトピー体質じゃなくなったのかも、とも思っていたほどだった。しかし、それは大いなる間違いだった。
卒業し、日本に帰ってきて就職した私は、また同じ痒みに悩まされることとなった。なぜ日本なんかにまた戻ってきたんだろう、と本気で思った。アトピーのせいでお化粧もまともにできない。私のOL生活は、また痒みとの闘いだった。そして勤め始めて1年余り、もう我慢はできないと思った。またアトピーのない生活に戻りたかった。東京でアトピーに苦しむ生活はもう2度とごめんだ、と。
そしてOL時代に貯めたお金を資金として私はまた、留学した。今度はアメリカの北東部、コネチカット州だった。オハイオの時ほどきれいに治ったわけではないが、1年目はだいぶアトピーも軽く、ほっとしていた。やっぱり日本がいけないのだ、と思った。しかし、2年目になりひどくなった。多少日本にいた時と症状は違ったが、痒いのには変わりない。掻けば皮膚が大きなふけの塊のようにぽろぽろ落ちた。指が痒くて掻いてはれ上がり、曲げられないほどになった。耳の後ろが痒く、掻けばジュクジュクした液が出、その液が髪の毛を固めることもあった。学校に行けば皆私の顔を見てどうしたのかと聞く。ビタミン飲んだらいいよ、いい漢方医知ってるよ、うちの従姉も似たような皮膚病したことがあってね、と会えば必ず私のアトピーの話になり、辟易した。お願いだから放っておいてほしいと思った。アメリカでアトピーなんて知っている人は少ない。特効薬のない、治療法がない病気だといっても分かってはくれないのだ。
大学病院の皮膚科の医者は、アトピー(Atopic
eczema)はアメリカでも珍しくないと言った。特にこの北東部、ニューイングランド地方では多いのだと。どうやら、私は留学先を間違えてしまったらしかった。医者は血液テストをし、小麦を避けるように言った。以来、私の小麦断ちの生活が始まるのだ。
しかし、小麦を断っても症状はいっこうに良くならなかった。林学を勉強していたので、修士課程修了後、学校の演習林で3ヶ月研究助手として働いたが、そこでも症状は最悪だった。フィールドワークでアトピーというのは最悪だ。汗をかいて痒くなっても、手はフィールドワークで汚れ、掻いたらばい菌が入るのは分かりきっている。演習林で澄みきった夜空を見ながら、、私のアトピーは単に空気の汚さに反応しているのではないということを確信した。
多くの留学生が卒業後もアメリカにとどまり、就職活動をする中、私は日本に帰ってきた。あんなアトピーがひどいところにこれ以上留まってなるものか、という感じだ。そして驚いたことに、日本に帰ってきて多少症状が好転した。決していい状態ではなかったが、少なくとも、大学院2年の時の最悪の状態よりはましだった。ステロイドを使ったせいもあっただろうが。
その後、熱帯雨林に関係する仕事を求め、インドネシアはバリ島にやって来たが、こちらに来て、アトピーはすっと消え去った。以来4年間、アジア各国への海外出張も多いが、日本に帰ったとき以外、アトピーに悩まされたことはない。そして、日本からこのバリに帰ってくると、またアトピーはすっと消える。
「国に帰りたくないの?」「家族が恋しくならないの?」とよく聞かれる。別段ホームシックにかかったことはないが、それでもたまに日本の美しい四季が恋しくなる。もう何年桜を見ていないことだろう。しかし日本に帰ればアトピーに苦しむ生活が待っていることは目に見えている。痒くて痒くて、生活や季節の移り変わりを楽しむ余裕はきっとないだろう。そして、アトピーは心さえも蝕む。アトピーがひどいときにはひどく後ろ向きな気持ちになり、未来を見出せなくなるのだ。それを考えると、今、このバリでの生活は天国である。
アトピーで苦しんでいる人に提案してみたい。一度、住む場所を変えてみたらどうですか、と。そして、日本国内でだめなら、思いきって海外も試してみてはいかが、と。
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こんばんは
返信削除子供の頃から抱えたものですが、アトピーではなく、私の場合は恐らく寒暖差アレルギーがあります。
皮膚科に行ったことがないので、アレルギーの原因は不明ですが、日本に居た時に症状がなかったのに、留学が終わって、帰国したらアレルギーが出ました。
アトピーのほど、辛くはないと思うが、小学生の頃は大変でした。
ですから、記者の気持ちは少し理解出来ます。
林さん、コメントどうもありがとうございます。
削除寒暖差アレルギーですか。もしかしたら私もそうなのかもしれません。ただ、私の場合は反対で、温かい、東南アジアのどこに行っても特に問題はありませんが、日本に行ったら再発します。まるで日本に対してアレルギーがあるみたいで、悲しくなります。
はじめまして、アトピーは洗剤の界面活性剤が原因と指摘するお医者さんもいます。
返信削除もし海外での洗濯洗剤やシャンプーなどに違いがあればそれも原因かもしれませんね。
また、日本の水道水は塩素が多いようですのでそれも何かあるかもしれませんね。
みなさんの参考になればと思いコメントしました。
はじめまして、私(♂)もアトピーです。
返信削除もともとアトピー持ちですが、先の冬からとてもひどいです。
おなか、胸まわり、ところどころ赤い。眉毛の下や、眉間も赤くなります。
ひどいときは耳のうらの首のところががさがさして、やはり汁がでることもあります。
さて、先の一週間で劇的に回復する経験をしました。
会社の出張でフィンランドに6日間、滞在したのです。
渡航1日でだいぶ回復。二日目でとてもきれいになりました。
で、日本に帰ってきたら、また身体が赤くなっています(笑)
なんじゃこりゃ。
みなさんのアトピーには、いろいろな原因があると思います。
私の場合は、水か、空気なんでしょうね。
他人は、いろいろ勧めてきますよね。私も勧められます。
でもそれを聞くのもつらいですね。わかります。
それでは、そろそろ寝ます。
たまたま見つけた記事が、共感できたもので。
東京 墨田区在住より
つしまさん、
削除ご訪問およびコメントどうもありがとうございます。やっぱり似たような経験をされている方っているんですね。アトピーがアレルギー反応なのは間違いありませんが、原因は人によるといいます。添加物が体に悪いとか、食事のバランスだとか、水の塩素だとか言いますが、私も空気を疑っています。インドネシアでは添加物たっぷりの既製品を食べ、ろくに掃除もしない部屋に住んでいてもなんともないのに、日本では水をペットボトルで買い、お風呂の水も濾過し、食事に気を配ってもアトピーは出るからです。
結局最近インドネシアを引き上げて来、帰国しましたが、またアトピーとの闘いです。でも本当に耐え切れないのなら、海外という手があることを学んだので、それが救いです。
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削除生まれながらにしてアトピーだった私ですが、日本での生活は症状が悪化したり好転したりととてもストレスのかかるものでした。
返信削除特に寝てるときは無意識にかきむしってしまい、起きたらベットが血だらけなのには心底驚きました。
今、ワーホリという形で海外に来てからというものの、最初の数か月は地獄のような日々でしたが、場所を移動したところスッキリと治りました。そこは山に囲まれ水が大変綺麗な場所だったからだと思いましたが。
今現在暮らしておりますメルボルンはお世辞にも綺麗とは言えません。その場所でさえアトピーは何も問題ありません。(特別、食事等を気にしてるわけでもありません)
海外に来たら好転するというのはどういった理由なのでしょうか。。。気候でしょうか。。
この記事を読ませていただいて大変参考になりました。海外で暮らしていくという道しかないのかなぁという気持ちです。
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削除皆様の御話をまとめると、
返信削除メルボルン、バリ、オハイオ州の田舎はアトピーが出ないのですね。
興味深いです。
日本や一部の地域では出ると。
私は少しそのメカニズムに心当たりがあります。
しかし、色々な事情から、それを公言することが出来ないのです。
ただ、私もアトピーを持っているので、皆様の御気持ちはわかります。
日本という国にアレルギー、ですか。
言いえて妙ですね。
実際、私も、アトピーや花粉症であるだけでなく、
日本という国、日本という社会それ自体が合いません。
その意味でも、私も日本アレルギーといえると思います。
私も近く、海外に移住する予定です。
複合的な事情で、そうせざるをえないんですよ、生きていくために。
決して、海外に遊びに行くわけではないんです。
日本では、生きていけないんですよ。心理的にも。
ニューイングランドのあたりは全滅ですか?
返信削除参りましたね。
だとするとニューヨークやマサチューセッツの当たりも危険かもしれませんね。
そのあたりで教育を受けたかったのですが。
バリ島は魅力的だと思います。
しかし、魅力的な教育機関もない、職種も限られるという中での
生活は一般人には難しいでしょうね。
メルボルンはオーストラリアだから、英語が通用するし、
教育機関も仕事もあるから、実力次第で生活していけますよね。
昔、シドニーに行ったことがあります。
しかし、私はアメリカに行こうと思います。
少なくとも大学はアメリカと決めています
この件に関して、大変共感できるので、
返信削除もっと皆様と色々御話したいなあ。
今、体調とか、かなり厳しいんですよね。
↓私のブログです(近いうち、閉鎖するかも)
http://research00institute.blog.fc2.com/
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返信削除はじめまして。
返信削除実は私も日本というか東京に居るとアトピーになります。
マレーシア、タイ、沖縄、北海道にすんだ時は全くアトピー出なく、東京に帰ると全身に湿疹、蕁麻疹がでます。
今東京3年居ますが耐えられず、日本国内出来れば本州で引っ越しを検討しています!
医者にこんな話をしても鼻で笑われて終わりました。
今はステロイドとアレルギー薬服用してますがそれでも酷いです。
どういう所に引っ越したら良いかわからず、今色々調べてますが、
大気汚染はさほど関係なさそうですよね。
水か、植物か、気候か…
アトピー出ない生活が恋しいです。
是非色々教えて下さい‼️