2013年2月28日木曜日

幻の日

今日は2月の最後の日だ。そして、明日からは3月だ。当たり前のことだが、少し寂しい。そういえば昔、2月の最後の日について、友達と議論になったことがあることを思い出す。


当時、私は小学1年生だった。ちょうど、同級生と誕生日の話をしていた。誕生日いつ、という質問に、その子はこう言った。
2月の最後の日だよ。」
彼女がもったいぶったそんな言い方をしたのは、どうやら他の月が30日か31日ある中、自分の誕生日だけが月の最後なのに28日だということを特別に感じていたからだった。2月だけ他の月より短いということを知っている小学1年生はそんなにいないかもしれない。

しかし2月の最後の日と聞き、私は229日だと思った。なぜなら、それが私の姉の誕生日だったからだ。そして、その日が特別な日であることを、私は既に知っていた。
「え?229日?」私は思わず尋ねた。すると、憤慨したようにその子は言った。
「違うよ。28日。2月は28日までしかないんだよ。」
だから私は言った。年によって29日があることもあるのだと。だって、私の姉はその229日生まれなのだから。

「嘘だー。2月の最後の日は28日だよ。」
自分の誕生日のことだけに、彼女も譲らない。周囲の人間に同意を求め、2月は28日までしかないことを主張した。私もあくまでも29日があることもあることを主張したが、集まってきた別の同級生が教室から持ってきたカレンダーにより決着はついた。論より証拠である。その年の2月には、29日はなかった。今年はなくても、29日がある年もあるなどいくら私が言ったところで、圧倒的に不利であった。

「ほうら、カレンダーには28日までしかないよ。29日なんてないんだよ。」
勝ち誇ったその子の顔。結局私は嘘つきということになった。何にも知らないくせに、と唇を噛み締める私に「自分のお姉ちゃんの誕生日くらいちゃんと覚えておきなよ。」と追い討ちをかけ、まわりの子たちは去っていった。

何が正しいかは結構、居合わせた人間の多数決によって決まってしまうものだ。私の本名はもともとひらがなだが、小学生の時、日本人の名前はみな、正式な漢字があると思い込んでいる同級生の中で、何年生になっても自分の名前を漢字を書けないおばかさん、と思われることも多かった。自分の名前は最初からひらがななのだと言ったところで、名前がみな漢字の小学生の中にあっては簡単には信じてはもらえない。自分の名前が漢字で書けない言い訳だと思われた。天動説が常識とされる世界でいかにコペルニクスやガリレイが地動説を唱えたところで、狂人扱いにしかされないのだ。

今年も、2月のカレンダーは28日で終わりだ。そして世の中大多数の人間は、それを気にも留めないだろう。しかし私は228日と3月の間に4年に一度だけ出現する、幻の日を思う。そして、姉にいつ「お誕生日おめでとう」と言えばいいのか、悩むのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿