2013年2月26日火曜日

グッドラックららばい(平 安寿子)

ありえそうにないユニーク家族の20年を描いたこの小説。何の理由もなしにふらりと家出をしたまま帰ってこない母。それを、まあ、いいじゃないかと笑って許してしまえる貯蓄命の父。ダメ男とセックス三昧の日々を楽しむ男道楽の姉、とにかく金持ちになりたい、玉の輿に乗るためなら何でもする妹。生きる方向が人とはちょっとずれている片岡家の人々。

はじめのうちは全然登場人物に感情移入できず、正直言って嫌悪感すら感じた。しかし、読み終わってみれば、めでたし、めでたし。人の迷惑を考えず自分本位に生きるその生き方に爽快ささえ感じてしまう。この家族は、世間や常識を気にしない、というよりも、この家族は世間や常識が存在することさえも知らないのではないだろうか。だから、悩まない、迷わない、ストレスを溜めない。人目を気にせず、自分の定義した幸せの中で生きているのだ。

自分勝手なこの家族の中でも一番見事なのが、このお母さんだろう。突然家族を置いて巡業中の芝居一座についてゆく。そこで何年か芝居をやった後、ひょんなきっかけから、つぶれかけの旅館の女将をやることに。家出後は見事な根無し草の行き当たりばったり人生を歩んでいるのだが、見事なぐらい悩んでいない。何の後悔もしていない。娘2人の将来ぐらい心配しろ、と言いたくなるぐらいだが、それもない。決して家族に愛情がないわけではないのだ。むしろ、家族との絆を誰よりも信じている。だから、家出をしたことで家族を裏切ったとは考えてないし、当たり前のように家がいずれ変える場所だと思っている。「家に帰るのは、疲れてからでいい。家はそのためにあるのだから」って、家族から拒絶されるとは考えていないんですかね?私が娘だったら、絶対恨むと思うが。そりゃあそうでしょ、自分を見捨てて出て行って、好き勝手して。しかしお父さんのほうもまたマイペースで、妻の家出に傷つくのでもなく、怒るのでもなく、そんな妻をただのほほんと温かく見守っている。妻を疑うなどしてもみないのだ。この夫婦の絆はダイヤモンドのように堅いのかもしれないと思ってしまう。

「世の中、難しく考えることはない。生命さえあれば、偶然ぽろりと落ちた土の上で咲けるのよ。春の畑にはびこる蓮華みたいに。」いやあ、たくましい。この小説を読んでいると、本当にそんな気分になってくる。自分の抱えている悩みが取るに足らないものに思えてしまうのだ。すべては、捉え方しだいだと。私もかなり自分本位なマイペース人間のつもりだったが、この片岡家のみなさんには負けました。前半感じた多少のいらいら感はどこへやら、爽快な読後感。

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