2013年2月12日火曜日

Please Look After Mom (Kyung-Sook Shin)


初めて韓国の小説を読んだ。別に韓流好きというわけではない。韓国のドラマも映画もほとんど見たことがない。韓国のストーリーは必要以上にドラマチックと聞いていたが、これはそんなことはなかった。むしろ、ストーリーではなく、その中のメッセージが読者を捉えて放さない。

ストーリーは極めて単純だ。69歳になる母が行方不明になった。息子家族の家へと向かう際ソウル駅で夫とはぐれ、その後行方が分からなくなったのだ。そこから特に話が展開することもない。ただ淡々と過ぎる時の中で家族は懸命に捜索し、その途中、数々の眠っていた思い出を記憶の底から掘り起こしてゆく。視点は長女、長男、父(夫)、そして本人と変わりながら、家族のために生きた一人の平凡な女性の人生が描かれてゆく。

この単純なストーリーが世界的ベストセラーになったのは、はやり普遍的なメッセージが込められているからだろう。生まれてきたときからずっとそこにあった、当たり前と思っていた存在。いなくなって初めてそのあまりにも大きな存在に気づく。自分の全てを犠牲にして家族に尽くしてきた母、あまりにもそれが当たり前で思いを寄せたことさえなかったが、その人生は幸せだったのだろうか。

「どうしてお母さんははじめからお母さんだと思っていたんだろう。お母さんにはお母さんの人生があって、夢があったはずなのに。」末っ子の次女の言葉は、読者へのメッセージに他ならない。
これは、世界中のどの地域、どの文化に移しても成り立つ小説なのではないだろうか。忽然と消えてしまって初めて気づく、大切な存在。この小説の中で悲嘆に暮れる家族のようなことにならないよう、小説は私たちを戒め、その存在のありがたさを教えようとしているのかもしれない。

文章の端々で韓国の伝統文化が描かれているのもよかった。この本は英語で読んだが、しかし、もしできるなら、日本語訳で読みたかったと思う。日本語のほうが韓国語に近いし、文化的にも原文に近い雰囲気が味わえたのではないだろうか。なかなか考えさせられる本だった。


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