2013年2月7日木曜日

まほろ駅前多田便利軒(三浦しをん)


便利屋を営む多田のもとに、ひょんなことからかつての同級生、行天が着のみ着のままで転がりこんできた。風変わりで何を考えているかわからない、行天の出現により、便利屋の仕事も妙な方向に転んでゆく。親に愛されない少年、日々を明るく生きる自称コロンビア人娼婦、ヤクザ、赤ん坊の時に取り違えられたかもしれない男。親に愛されずに育った行天、過去の傷から立ち直れずにいる多田は依頼を通し、多くのユニークな人間と出会う。それぞれに悩みを抱え、それぞれの幸福を求める人々だ。

この本の中では、いくつかの依頼が独立した短編のようになっている。そのストーリーだけを追っているだけでも楽しめるが、作品のテーマは、最後の文章に凝縮されている気がする。「今度こそ多田ははっきり言うことができる。幸福は再生する、と。形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。」と。

失った過去の幸福に苦しみ、「知ろうとせず、求めようとせず、だれとも交わらぬことを安寧と見間違えたまま、臆病に息をするだけの日々」を送っていたはずの多田。過去の幸福は取り戻せずとも、この最後の文章が示すように、別の形の幸せを求め、歩き出すのだろう。希望のもてるラストがやさしい余韻を残す。

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