2013年1月20日日曜日

パラレルワールド・ラブストーリー(東野圭吾)


東野圭吾の本にははずれがない。少なくとも私が今まで読んだものの中では。ただ、この人の書くものだとある程度以上の質・面白さを期待して読んでしまうので、どうしても点が辛くなってしまう。

このパラレルワールド・ラブストーリーもそんな本のひとつだった。過去の記憶に疑問を持ち真実を解き明かそうとする現在と、取り戻していく1年前の記憶の中の風景が交互に描かれる。その構成はさすがだ。また、最後までストーリーも飽きさせない。脳科学という分野も作者が得意とするもので、「変身」「宿命」などでも取り扱っており、「こんなの現実にあるわけがない」と思いつつも、小説世界の中でつじつまを合わせられるのも作者の力量だろう。それでも多少消化不良の感が残るのは、智彦という主要人物がきれい過ぎるからかもしれない。親友に裏切られ、唯一無二の恋人を奪われたにしてはあまりに人が良すぎはしないか。最後に残された手紙は確かに感動的だったが、こんな聖人みたいな人本当にいるのかと思ってしまうのは、私が未熟なだけだろうか。三角関係自体は、武者小路実篤の「友情」を思わせるが、智彦の人間が良すぎるためにラストの現実味が薄く感じられてしまう。しかしなんだかんだ文句をつけながらも、楽しんだことは否めないので、娯楽にはいい。

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