2013年1月20日日曜日

ブレイブ・ストーリー(宮部みゆき)


宮部みゆきの才能はとどまることを知らない。ミステリーはもちろん、時代物、そしてファンタジーまでこなせるとは。しかも、王道中の王道を行くストーリーながら、面白い。飽きさせない。そして、エンディングも教訓的メッセージがうかがえるものの、陳腐ではない。さすが、というべきか。

父が母と自分を捨てて、愛人と暮らすことを宣言してから、小学5年生の亘の生活は一変する。そんなとき、ひょんなことから 別世界、幻界の存在を知る。幻界で困難を乗り越え、運命の女神に会うことができればたった1つ、願いが叶えられるという――。設定はゲームそのものだ。それもそのはず、幻界は現世の人間の想像によって生まれたものである、というそのための布石がある。見習い勇者となり、旅の仲間を連れて宝探しをするのも、運命の塔を目指すのも、全てオーソドックス。さらに言えば、最後の戦いが自分自身だというのも、「ゲド戦記」と同じだし、最後に幻界を救うというのも、ありがちといえば、ありがちだ。それでいて、王道には王道ならではの醍醐味がある。数々の困難を乗り越え、自分自身に打ち勝ち、たった1つの望みを叶える権利を手にしたワタルが願ったのは、運命を変えることではなかった。それは、理不尽な運命に会うたびに、それをなかったことにすることはできないから。大切なのはそれと向き合うこと、それを克服することだとわかったのだ。

人間、長い人生の中では誰だって理不尽な運命に直面することがあるだろう。私にだってあった。「何で私だけがこんな目に」そんなことを思って他人を羨んでも仕方ないのだ。しかし、それに気づく人が一体どれぐらいいるだろう。自分の運命を呪い、他人を憎み、自分を助けてくれた人の存在に気づかないではいないだろうか。自分自身の憎しみに負けたミツル、旅に挫折し、想像の世界の中で王となり朽ちていったかつての旅人、教王。この物語の中で登場するそうした存在を考えると、この物語の深さに気づく。

0 件のコメント:

コメントを投稿