2013年1月29日火曜日

星星の舟(村山由佳)


○○賞受賞作というのは当てにならないことも多いが、しかし、これは違った。これでこそ直木賞、さすが、と全面的に称賛できる作品だった。

村山由佳といえば、押しも押されぬ人気恋愛小説家である。私も特別恋愛小説が好きなわけではないが、「天使の卵」「天使の梯子」「おいしいコーヒーの入れ方シリーズ」のいくつかは楽しんだ。この「星星の舟」にはある家族ひとりひとり(4人兄妹と父親)の話が短編として収められている。その短編5編のうち、最初の3編はしっとりした情緒があふれ、大人の味わいではあるものの、やはり従来の恋愛ものの村山由佳だな、と思った。しかし、年の離れた団塊世代の長男の話のあたりから風向きが変わってゆく。そして最後の父親の話は、完全に裏切られた。いい意味で。この作家が戦争ものを書けるなど、中高年の男の心情が描けるなど、誰が予想していただろう。どうやら後書きによると、作者は戦争に行った父の昔語りを直接聞いて育ったらしい。父親の話も、実は恋愛の話ではあるのだが、それを忘れるほど甘さがなく、深く、衝撃を受けた。

文章の美しさ、雰囲気、そして内容。1編1編をとっても珠玉の出来だが、これが家族の話としてまとめてあることで、また違った味わいがある。同じ家で育ち、あるいは生活している家族とはいっても、一人ひとりの人生があり、同じ家族でも知らない自分の世界を秘めているのだと。

この本で間違いなく村山由佳は株を上げた。この人気作家がこれからさらにどう成長してゆくのか、楽しみなことだ。

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