2013年1月20日日曜日

時生(東野圭吾)


ストーリーは、ありがちなタイムスリップもので、どうしようもない若者だった宮元拓実は未来から来た息子・トキオに導かれ、自分の出生の経緯を知り、自分の生まれたきた意味、生きる意味を教えられるというもの。こう書いてしまうと陳腐な気がするが、さすがは東野圭吾で、消えた恋人の謎やそれにまつわる大規模汚職事件などを交えた、ミステリー調で話は進んでゆく。息子の死に臨む拓実の回想という形なので、エンディングはわかっているのだが、飽きることはない。

しかし、消えた恋人が巻き込まれた大規模汚職事件、息子の不治の病と、多少詰め込みすぎの感じはある。ただ、未来で不治の病を煩って死んだ息子だからこそ、「生きる意味」を語ることができるのかもしれないが。以下は、そのトキオが父の拓実(その時点ではトキオが未来から来た息子だなんて信じてはいないが)に言う言葉。

「どんなに短い人生でも、例えほんの一瞬であっても、生きているという実感さえあれば未来派あるんだよ。あんたにいっておく。明日だけが未来じゃないんだ。それは心の中にある。それさえあれば人は幸せになれる。それを教えられたから、あんたのおかあさんはあんたを産んだんだ。それをなんだ。あんたはなんだ。文句ばっかりいって、自分で何かを勝ち取ろうともしない。あんたが未来を感じられないのは誰のせいでもない。あんたのせいだ。あんたが馬鹿だからだ。」

命の意味をトキオから教えられた拓実だからこそ、その数年後、不治の病を背負うかもしれないとわかっていながら、息子が生まれることを選択したのだろう。そういう意味で、トキオの「でもね、拓実さん、俺はさ、生まれてきてよかったと思ってるよ」という言葉は、父に、将来、自分は生まれてきたい、だからそういう選択をしてほしいという意思表示と、自分が生まれることを選択したお礼という二重の意味があるのかもしれない。

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