この作者の作品を読んだのは初めてだったが、内容の濃い秀作だった。なぜ何の賞も得ていないのか、不思議なくらいである。アマゾンでも、投稿されている書評はわずか。この佳作はもう少し評価・注目されてもよいのではないかと思う。
時は明治、国を挙げての殖産興業の真っ只中、近代鉱業の中心となった但馬生野銀山を舞台にした大河小説である。真摯に生きる鉱夫の雷太と、その人生を彩る3人の女――雷太の幼馴染で貧困から芸妓となった美貌の芳野、町一番の良家の娘・咲耶子、雷太に一途に思いを寄せる咲耶子の小間使い、志真。女には何の力もなく、男にすがることでしか生きていけなかった時代だった。女という立場の弱さに泣き、運命に、男に翻弄されてゆく。その人生には3人3様の悲しみがあり、節の通し方があった。貧乏家族を養うために身も心も犠牲にしながらも、自分の道を切り開いていった芳野の身の振り方は、哀れながらもあっぱれだと思った。誰よりも恵まれて、新しい明治の女として希望に燃えていたはずの咲耶子も、結局はその特権的な身分ゆえに、社会の作った女という枷に誰よりも苦しみ、挫折してゆく。それでも彼女をかばう人間がいつもいたことは、やはり彼女の恵まれた生い立ちゆえで、幸運といわざるを得ない。芳野にはそんな人間もなく、全て自分の力で創り上げていかなければならなかったのだから。
また、この物語で、恵まれない境遇に育ちながらも人を助け、まっすぐに生きていく雷太とは対照的に描かれている、幼馴染でフランス人のクウォーター、北村伊作の存在も見逃せない。多くの人の厚意を受けながらも自らの不運を嘆くことしかせず、人を恨み、自滅していった男。そのほかにもこの物語には、激動の時代に翻弄されながらも抗い、自分の道を歩んでいった人間が幾人も登場する。そして、傷つきながらも希望の光を見出していった登場人物の姿に励まされるのだ。
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